「今、売れているアートはどんなものですか?」
「現代アートのトレンドって何ですか?」
アートを買おうとする人や、アートに興味を持ち始めた人から、こうした質問をよく聞く。
しかし、ファッションや音楽のように、シーズンごとに流行が生まれ、それに合わせて作られるものではないのがアートである。
もちろん、「流行っている作家」や「話題の展示」はある。しかし、それは一過性のトレンドとは違う。
アートとは本来、「残すこと」を目的として作られるものであり、歴史の中に新たな礎を築くことが本質である。
だからこそ、流行を追いかけるのではなく、むしろ「これまでになかったもの」を生み出すことが重要なのだ。
では、現代アートにおいて「トレンド」とはどのように考えるべきなのか。
アートはトレンドを追わない——歴史をつくるもの
ファッションを考えてみよう。毎年のコレクションで、流行色やスタイルが決まり、それに沿ってブランドが服を作る。
流行のデザインは1年もすれば廃れ、また新たなトレンドが生まれる。消費されることを前提にしたビジネスであり、常に新しさを求められるのがファッション業界である。
しかし、アートはそうではない。アートの目的は「売れること」ではなく、「残すこと」にある。
過去の美術史を振り返ると、印象派、キュビズム、抽象表現主義、ポップアートなど、さまざまな流れが生まれてきた。
しかし、それは単なる「流行」ではなく、美術の文脈の中で新たな価値を生み出したもの である。
現代アートも同じで、アーティストは目の前の「売れる流行」ではなく、「これまでになかった表現」を生み出すこと を目指している。
だからこそ、ファッションのように「今年のトレンドはこれ!」と簡単に言えるものではないのだ。
技法には「トレンド」がある——新しい技術が表現を変える
ただし、アートの技法に関しては、確実にトレンドがある。新しい技術が登場すれば、それを活用するアーティストは増えていく。
例えば、かつて油絵が主流だった時代にアクリル絵の具が登場すると、それを使った新しい表現が生まれた。
同じように、現代では デジタルプリント、ペンタブレット、3Dプリンター、写真、映像、VR(仮想現実) など、次々と新しいメディアが登場し、それを活かした作品が増えている。
こうした技術の進化は、アートの表現の幅を広げる。しかし、それを「トレンド」と呼ぶのは少し違う。なぜなら、技法はあくまで「手段」であり、「目的」ではないからだ。
重要なのは、新しい技術を使って「何を表現するか」。それが美術史に新たなページを加えるものであるかどうかが、アートとしての価値を決めるのである。
サブカルチャーからハイアートへ——アートは時代の価値観を変えるもの
美術史を振り返ると、アートの表現は時代とともに変化してきた。
例えば、村上隆が提唱した「スーパーフラット」は、オタク文化やアニメの表現を現代アートに取り入れたものである。
これは単なる「流行」ではなく、日本のサブカルチャーをアートとして認めさせる新しい価値観を生み出した ことに意義がある。
アメリカのポップアートもそうだ。もともと広告デザインやアメコミなど、大衆文化の中にあった表現をハイアートの世界へと持ち込んだ。
アンディ・ウォーホルのキャンベルスープ缶や、ロイ・リキテンスタインのアメコミ風の作品は、「これまでアートとは認められていなかったもの」をアートにしたという点で、歴史的な意味を持つ。
つまり、アートには「これまでになかった価値観を生み出す力」がある。
サブカルチャーがハイアートへと昇華されることはあっても、それは一時的な流行ではなく、美術史の中で重要な意味を持つ変化なのである。
トレンドではなく、美術史の文脈の中で生まれるもの
では、現代アートにおいて「トレンド」という概念は存在しないのだろうか?
答えは、「トレンドというよりも、美術史の中で新しい流れが生まれる」と言ったほうが正しい。
確かに、新しい技術が登場すれば、それを活用するアーティストが増え、一時的に「流行しているように見える」ことはある。
しかし、それが単なる流行で終わるのか、それとも美術史に残すものになるのかは、時間が経ってみなければわからない。
アートの価値は、「その瞬間に売れるかどうか」では決まらない。長い時間の中で評価され、やがて歴史の一部として語られるものが本物のアートなのだ。
まとめ・・・アートは流行ではなく、時代を超えて残すもの
・アートはファッションのように毎年の流行があるものではなく、美術史の中で新しい価値を生み出すものである。
・技法には「トレンド」があり、新しい技術が登場すれば、それを活用するアーティストは増える。
・しかし、それが単なる流行で終わるのか、美術史に残すのかは、時間が経たないとわからない。
・ポップアートやスーパーフラットのように、サブカルチャーがハイアートになることはあるが、それはファッション的なトレンドとは異なる。
・アートの価値は「売れること」ではなく、「残すこと」にある。
アートの世界には、確かに新しい表現や技術が次々と生まれている。しかし、それらを単なる「トレンド」として消費するのではなく、「美術史に新しい礎を築くもの」として捉えることが重要なのである。
アートは流行を追いかけるものではなく、流行を超えて、時代の価値観を変え、「残すこと」を目的とするもの なのだ。
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